男社会の漁業界に今春、異色の師弟が誕生した。高校を卒業したばかりの鎌倉市の18歳の少女が、地元の女性漁師の下に弟子入りを志願。男性漁師にも劣らない仕事ぶりにあこがれ、門をたたいた。幼少期からの夢でもある漁師へ。師匠の船に乗り込み、その背中を追い掛ける日々を送る。
漁師の道を志したのは、鎌倉市の桑原桃子さん。師匠の岩橋桃子さん(33)とは、偶然だが、同じ名前だった。身長は152センチ。「モモ」と呼ばれる師匠と区別し、いつしか愛称は「小モモ」になった。
師匠のモモは学者の家庭に育ちながら、大学卒業後、漁師の世界に飛び込んだ。鎌倉漁協副組合長の前田恵三さんに指導を受け、2006年、漁協の組合員になった。自身の漁を手掛けながら、シラス漁を営む前田さんの直売店も手伝う。小モモは、その店の近くで幼い時から暮らしてきた。
海が大好きな小モモにとって、小学生のころ、店はお気に入りの場所だった。「いろいろな魚や生き物を見るのが楽しかった」。中学生のころには、モモの船に乗せてもらった。網をたぐり寄せると、透き通る海中からサザエが揚がり、夢中で漁を手伝った。
「漁師になりたい」。漠然とした気持ちは、この時に確かなものになった。
中学卒業後、すぐさま弟子入りすることも考えたが、県立海洋科学高校に進学した。前田さんには「あせって道を決める必要はない。3年後、気持ちが変わらなかったら、また来ればいい」と諭された。
気持ちが揺らぐことはなかった。高校では、船舶のイロハや操船技術、ロープの結び方など基本を学習。在学中に船舶免許まで取得し、着々と備えてきた。
「高校に行けば考えも変わると思っていたが、変わらないと言う。『こいつ変人だよ、本当にいいのか』と思ったよ」。モモは、小モモの決意の固さを知り、驚いたという。
一方で、夢ばかりが膨らみ実態との乖離(かいり)に落胆するのではないかと、懸念もあった。「決して楽しいことばかりではない」。体力的なきつさなど、モモ自身も肌で感じてきたことだ。
立場上の迷いもあった。「私がまだ学んでいる身。師匠とか弟子とか言われても…」。さまざまな考えが頭をよぎったが、最終的には受け入れることにした。「大変だが、仕事としては確かに面白い。本人がどうしてもやりたいというなら、よし来いと思った」
4月以降、モモと小モモは、2人で漁に出掛けるようになった。6月はカマス網とタコ籠がメーン。水揚げが終わった午後は、前田さんの店も手伝わせている。「直売店があるのだから、魚を捕って終わりではなく、加工や販売、接客のすべてを経験してほしい」とモモは考えている。
そんな毎日を「本当に充実している」と小モモ。「いまはすべてを吸収したい」。将来的な目標は、組合員となり、船を所有すること。その前に、独り立ち後欠かせない自動車免許を早急に取得するつもりだ。
カナロコ 6月26日(日)17時0分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110626-00000014-kana-l14